一般的な事柄について
「親知らずは抜かないといけないのですか?」
ケースバイケースです。まっすぐ生えていて上下の親知らずが噛み合っているときは、よほどむし歯がひどいとか歯周病がひどいといった場合を除いてそのまま使っていただくことが多いです。
ただし、多くの場合はそうでなく、斜めに生えて前の歯にぶつかりそれ以上生えてこないような状態の場合は抜歯することをおすすめいたします。
(矯正によって真っ直ぐに生えるようにすることも場合によっては可能です)
特に、親知らずの部分が何度も腫れたり、違和感を生じたりを繰り返した経験のある患者さまには早めに受診されることをおすすめいたします。
「歯磨きは1日に3回しないといけないのですか?」
決して回数が全てではありません。
大事なことは、掃除しないといけないところに歯ブラシがきちんと当たっているか、ということだと思います。
鏡を見ながら歯ブラシの先がどこに当たっているかチェックしながら歯磨きをしていますか?
鏡を見ないで歯を磨くことは、真っ暗の部屋で掃除機をかけていることと同じです。掃除はしているのにどこをきれいにしているのかわからない状態なのです。
むしろ鏡を見ながらきちんと歯ブラシができ、その上フロスと歯間ブラシを適切に使っていただければ1日1-2回でも大丈夫だと思います。
「歯磨き粉(ねり歯磨き剤)は使わないといけないのですか?」
歯磨き粉はあくまで補助的なものだとお考えください。
歯磨き粉を使わなくても歯ブラシ・フロス・歯間ブラシがきちんと使えるのであれば口の中の汚れを取り除くことできます。
歯磨き粉がないと磨いた気がしない、という方も多いです(私もそうです)が、あまり心配はいりません。
いくつか歯磨き剤を当院でもおすすめしていますが、ブリリアントモアという歯磨き剤はよくステインを除去できているという印象があります(2024年5月現在)。
患者さんに使っていただいて実際に2ヶ月後くらいにチェックをしてみると、それまでよりもステインの付いている量が明らかに減っている方がいらっしゃいました。
あくまで当院での感想ですので科学的根拠はありませんが、気になる方は使ってみてはいかがでしょうか。
「うがい薬を使った方がいいですか?」
うがい薬もあくまで補助的なものです。
ただ、手が不自由になったりして歯ブラシがうまく使えなくなった方、歯科矯正の治療中で装置が口の中にある方、といった通常の歯磨きに支障が出ている方には強くおすすめしています。
市販品で私がおすすめするのはリステリン®︎です。
昔から使われているうがい薬でやや刺激は強いですが、正しく使うことで歯肉炎を抑えることが立証されています。
「電動歯ブラシを使用したほうがいいですか?」
電動歯ブラシには、いろいろなものがあります。最近の研究では電動歯ブラシを使ったほうが、いわゆる手による歯ブラシよりも効果的にプラークコントロールができるという報告もあります。
ただし、その違いはあくまで限定的なもの(電動ブラシの方が優れてはいるが、そこまで騒ぐほどではないということ)です。
歯科医院では、定期的に(基本的には月に一度)衛生士による衛生管理指導を行いますが、その際に歯磨きのしかたを含めたチェックを行います(赤く染めだしてプラークを見えるようにする検査がそれです)。
その際に十分に歯ブラシによる歯磨きができているのであれば、あえて電動歯ブラシに替える必要はないと考えます。
逆に、電動歯ブラシにした方が良い場合もあります。
その第一は、プラークコントロールのチェックをした結果、歯ブラシによるブラッシング(プラークコントロール)があまり上手くできていないと判断された患者さまです。
歯ブラシもトレーニングが必要です。ただ様々な理由から歯ブラシによるブラッシングが上手くできないという患者さまはいらっしゃいます。
高齢により手が不自由になってしまったということもあるでしょうし、何らかの病であまり手が動かなくなってしまったということもあるでしょう。
そのような患者さまには電動歯ブラシは良い選択肢となります(もちろん、この場合も練習が必要です)。
それでもどれか一つ挙げて欲しい、と言われれば、オーラルBという電動歯ブラシをおすすめいたします。
この電動歯ブラシは歴史があり、”正しく使えば” プラークコントロールを向上させることが立証されています。
次に「電動歯ブラシを使われた方がいい」と考えられるのは、歯に矯正装置が装着されている患者さまです。
矯正装置(一般にブラケットと言います)が付いていると、歯を綺麗に磨くことはなかなか難しいことです。
矯正して歯を綺麗に並べることができたのに、歯磨きが良くないせいでむし歯があちこちできてしまっったということは多く診る症状です。
このような患者さまで歯磨きが上手くいかない場合には電動歯ブラシはよい選択肢となりえます。
一度歯医者さんに口の中の状態を調べてもらってから、歯ブラシの選択をすることをおすすめいたします。
「歯がたまにしみるのですが、これはむし歯なのでしょうか?」
必ずしも 歯がしみる=むし歯 というわけではありません。
むし歯以外で多いのは知覚過敏症です。知覚過敏症はむし歯ではありません。
原因として最も多いのは歯磨きの力が強すぎるために、歯ぐきが痩せてしまい(力負けしてしまい)、本来歯ぐきの下に隠れているはずの歯の根っこが表面に出てきてしまうために起こります。
歯の根っこは歯の痛みを伝える神経が入っているところですから、根っこが表に出てきてしまうと知覚過敏を生じやすくなります。
知覚過敏の症状はとても不快ですが、一番よくないのは、患者さまが歯がしみるという理由でその部分の歯磨きがおろそかになり、結果としてむし歯や歯周病になってしまうということです。
むし歯になれば痛みは増えますし、歯周病になれば治療はさらに複雑になります。
”歯がしみるけど、知覚過敏かな?むし歯かな?”と感じたら早めに歯科医院を受診されることをおすすめします。
いきなり詰め物をするとか歯の神経をとるといった治療ではなく、なぜ知覚過敏になっているのか、本当に知覚過敏なのか、という原因究明や診断を行ってから、それに応じた治療を早めにしておくのが最善の対処法ですし、結果的に最も簡単な治療で済むと言えます。
「私の家族は全くフロスもしないし、1日に1度しか歯を磨かないのに、むし歯もない。私は1日3回は歯を磨くし、歯間ブラシもするがむし歯も歯周病もある。これは私の運が悪いのでしょうか?」
非常に難しい質問です。まずご家族に本当にむし歯や歯周病がないのかどうかはわからないことです。
症状がないこと=むし歯も歯周病もない、ということではないからです。
とはいえ、仮にそうだという前提でお話をします。
むし歯や歯周病は、人間みんなが持っている口の中の細菌による感染によって生じる病気です。これはどの人にも起こります。
つまり問題となるのは、1.ご本人がしっかり口の中のお掃除ができているか? 2.患者さまご本人の抵抗力(細菌と戦える力)があるか? という2点となります。
幼稚な例えで申し訳ないですが、戦争ゲームで考えてみましょう。
相手から常に攻撃を受けているのに、自分へのダメージを減らすにはどうしたらいいでしょうか?
当然第一は相手の戦力を減らすことです。減らせずとも相手が戦えないように邪魔をすることは必要です。
それが日々の歯磨きであり、フロスや歯間ブラシであり、定期的な衛生士によるメンテナンスです。
物理的に邪魔をすることになりますから、細菌が攻撃態勢をとりづらくなります。
第二は患者さまご本人の抵抗力です。
抵抗力は遺伝的なもの、年齢を含めた基礎体力に依存するもの、全身的な健康状態に影響されるもの、と様々な要因があります。
基本的にご本人の抵抗力そのものを劇的に上昇させることは不可能です(いつかそのようなことができる時代がくれば素晴らしいことです)。
大事なことは、患者さま自身の抵抗力を下げないように健康に留意することとしか現時点では回答できません。
それはまず、病気をしないこと(特に糖尿病で血のめぐりが悪くなります)、喫煙をしないこと(血のめぐりが悪くなります)、ということが重要だと考えます。
したがって、仮に今ご家族の中にあまり歯も磨かないけどむし歯も歯周病もない、という方がいらっしゃっても、それが今後もそうである保証はどこにもありません。
いつこの”細菌の攻撃とご本人の抵抗力”のバランスが崩れるかはわからないからです。
私の歯科医としてのこれまでの経験から申し上げれば、やはり大きな病気にかかったりであるとか、家庭環境の大きな変化であるとか、が発端となることが多いようです。
「自分の運が悪い」のではなく、いろんな原因の結果として生じている問題です。「治療しておいて本当に良かった」と思えるように、一緒に頑張っていきましょう。
「一度詰め物や被せ物をしたら一生持つのではないのですか?」
これもよくある質問です。どんなに素晴らしい材料と技術を使って治療をし、詰め物や被せ物をしても、一生持つ保証はありません。
詰め物や被せ物は所詮“ツギハギ”に過ぎません。
洋服でもそうですが、使っていれば、ツギハギをした部分からダメになっていきます。ツギハギをした部分はやはり弱いのです。
歯の詰め物・被せ物も全く同じです。
口の中は湿度がほぼ100%であり、温度は体温と同程度。しかもアイスクリームを食べたかと思えば、コーヒーを飲んだり、と温度変化の激しい環境でもあります。
また絶えず嚙み合うため歯や詰め物、被せ物には相当な力が加わります。スポーツなどをして噛み締めると、奥歯には自身の体重のおよそ3倍の力が加わるとも言われています。
こうした過酷な環境に耐えられるように日々研究が続けられ、より長持ちするような材料が開発されています。
「私の噛み合わせは正しくないのでしょうか?」
(まず知っていただきたいことは、噛み合わせと歯並びとは全く別の問題だということです。一般の方にはなかなか想像しづらいことだと思います。)
親知らずを除いて歯が全部残っているとしましょう。
結論から言えば、正しい噛み合わせの人などまずいません。
私もそうですし、私の家族もそうです。おそらく患者さまの周りにも正しい噛み合わせの方はいないでしょう。
それでも多くの方は問題なく過ごしていらっしゃいます。つまりこの事実こそが正しい噛み合わせでないこと自体は健康上の大きな問題でないことを示しています。
正しい噛み合わせはどうしたら作れるのか?
私がアメリカに留学しているときに習ったのは、全ての歯(何の問題もない歯も含めて)を抜歯して総入れ歯か全てインプラントにすることです。そうすれば、歯医者や技工士が教科書で見るような、“理想的な正しい噛み合わせ”を一から作ることができます。
ただどう考えても正当化できる治療ではありません。
では噛み合わせが問題となるのはどんな時でしょうか?
まずは被せ物をしたり、歯を削ったり、と噛み合わせを変えるような治療をした直後に、患者さんが“噛み合わせが変わった?”と感じた時でしょう。
それまで人生の長い時間を経て完成された噛み合わせが一瞬で変わるのですから、場合によっては噛んだ時に痛みや違和感が出たり、極端な場合は心身に変調をきたすことはあり得ます。
その時は直前に受けた歯科治療に何らかの原因があると考えるのは合理的だと思います。
では、特にここ最近そうした歯科治療も受けていないのに突如噛み合わせがおかしくなる、ということがあるのでしょうか?
噛み合わせは歯並び以外にも、顎の筋肉の運動、顎の骨の状態、顎の運動神経、あるいは自律神経の状態などによっても多少噛み方が変化することは“可能性として”ありえます(歯を削ったりといった噛み合わせや歯並びを変えるようなことをしていなくてもです)。
ただそうしたことが原因となって噛み合わせそのものが変化する事態は極めて稀だと考えてよいと思います。
仮にそうだとすれば、原因はいわゆる一般歯科治療によるものではない可能性が高いのではないでしょうか。
それは医科的な原因だったり、精神的、社会的な要因も関係したりしている可能性もあるでしょう。それは市井の一般歯科医では手が出せない領域です。
人体の動きが千差万別であるように、人間には、実際には正しい歩き方もないですし、正しい手の曲げ方もないと思います。そういった意味で、正しい噛み方というものもないと私は思います。
教科書に載っているような理想的な噛み合わせはあるとしても、現実はそうではない。
人生の長い時間をかけて到達した生理的な歩き方であったり噛み合わせであったりと、それが理想的ではなくとも“普通”なのだと思います。
ですから噛み合わせを治していく治療を私がもし行うとするならば(あまり行いませんが)、理想的なものを参考にしつつも、患者さんご本人の直近の噛み合わせ(それまで本人が慣れ親しんだ噛み合わせ)に出来る限り近づけるということになるだろうと思います。
ただ繰り返しになりますが、噛み合わせが問題では?と感じた時、それが直前に噛み合わせを変えるような歯の治療を受けてから、と感じるのであれば、おそらくその時は歯医者の出番だろうと思います。
「PMTCを受けられますか?」
当院ではPMTC(専門的機械的歯面清掃)を行っています(自由診療となります)。
PMTCとは“予防処置”に該当し、歯周病などになっていない健全な口の中に対して実施するものです。そのため残念ながら健康保険は適用されません。
PMTCとは北欧スウエーデンのAxelsson先生によって提唱された方法ですが、主な目的は、“患者さん自身では除去できない汚れ(プラーク)を取り除く”ということにあります。
ですから、患者さん自身で比較的簡単にお掃除ができる歯の表面をただブラシで磨くというものとは異なり、特に歯間部(歯と歯の間)の汚れを落とすことがメインターゲットと言って良いと思います。
汚れ(プラーク)がどのくらい残っているのかという診査から始まり、徹底した衛生指導に続いて、処置には特殊なブラシも用いますし、薬剤も使っていきます。
この一方で健康保険の範囲内で行う処置の中に“機械的歯面清掃”というほぼ同名のものがありますが、これは歯の表面をブラシなどによって清掃する処置ですが、PMTCとはコンセプトも効果も異なるものです。
とは言え、どちらの治療も口の中の健康を維持する上で重要な治療です。
ただ患者さまとお話をさせていただくと、PMTCを”何か特別(おしゃれ)なクリーニング”"歯をツルツルにする研磨"というイメージをお持ちの方が多いように感じます。
そういった一面があるのは間違いないですが、実際には極めて学問的、科学的な予防処置であり、いわゆる美容サロンで受けるような施術イメージとは異なるものです。
どちらの治療法が患者さんに適しているかを判断するにはまず検査・診断させていただいてからになります。ご遠慮なくお問い合わせください。
「フッ素を塗ってもらうことはできますか?」
当院では米国製高濃度フッ化ナトリウムを用いたフッ素塗布を行っています(少額ですが自由診療となります)。
言うまでもなくフッ素塗布は虫歯の予防に効果的であり、高濃度フッ化ナトリウムは知覚過敏を抑えるののにも有効であることがわかっており、欧米では標準的な予防処置として受け入れられています。
現在、国内の市販の多くの歯磨き剤にはフッ素が配合されていますが、万一誤った使用をしても害が起きないように市販品のフッ素の濃度は制限されています。
その分、歯科医院で用いるフッ素は高濃度であり効果も遥かに上回ります。
特に虫歯などが無くても現在の健全な歯の状態を維持したいという方、歯周病が進行して歯の根っこが見えるようになり知覚過敏に悩んでいる方などには自信を持っておすすめできます。(高濃度のため幼児未満にはおすすめしておりません。)
「唾液検査は受けた方がいいのでしょうか?」
現時点(2023年)では何とも言えません。
2021年の時点で、FDA(米国食品医薬品局)の認可を受けた唾液検査キットは、HIV感染や薬物乱用を検査するためのもの、Covid-19の検査のもの(緊急承認)だけであり、う蝕や歯周病、頭頸部のガンのリスクを評価するものでFDAの認可を得たものはありません。(https://www.ada.org/resources/research/science-and-research-institute/oral-health-topics/salivary-diagnostics)
つまり科学的に確かな検査である、という裏付けがありません。
現在この分野の研究は広く行われており今後の発展が期待されますが、検査方法として確立するにはまだかなりの時間がかかるのではないでしょうか。
ただ、検査自体は簡単で害のないものですから、私の印象は「信じる信じないは自由だし、タダならやってみてもいいかな」というものです。