よくあるご質問

一般的な歯科治療について、あるいは歯周病治療やインプラントの治療について、さまざまなご質問をいただきます。私見ではありますが、回答をお示しします。

一般的な事柄について

「親知らずは抜かないといけないのですか?」

ケースバイケースです。まっすぐ生えていて上下の親知らずが噛み合っているときは、よほどむし歯がひどいとか歯周病がひどいといった場合を除いてそのまま使っていただくことが多いです。
ただし、多くの場合はそうでなく、斜めに生えて前の歯にぶつかりそれ以上生えてこないような状態の場合は抜歯することをお勧めいたします。(矯正によって真っ直ぐに生えるようにすることも場合によっては可能です)
特に、親知らずの部分が何度も腫れたり、違和感を生じたりを繰り返した経験のある患者様には早めに受診されることをお勧めいたします。

「歯磨きは1日に3回しないといけないのですか?」

決して回数が全てではありません。大事なことは、掃除しないといけないところに歯ブラシがきちんと当たっているか、ということだと思います。鏡を見ながら歯ブラシの先がどこに当たっているかチェックしながら歯磨きをしていますか?
鏡を見ないで歯を磨くことは、真っ暗の部屋で掃除機をかけていることと同じです。掃除はしているのにどこをきれいにしているのかわからない状態なのです。むしろ鏡を見ながらきちんと歯ブラシができ、その上フロスと歯間ブラシを適切に使っていただければ1日1-2回でも大丈夫だと思います。

「歯磨き粉(ねり歯磨き剤)は使わないといけないのですか?」

歯磨き粉はあくまで補助的なものだとお考えください。歯磨き粉を使わなくても歯ブラシ・フロス・歯間ブラシがきちんと使えるのであれば口の中の汚れを取り除くことできます。歯磨き粉がないと磨いた気がしない、という方も多いです(私もそうです)が、あまり心配はいりません。

「うがい薬を使った方がいいですか?」

うがい薬もあくまで補助的なものです。ただ、手が不自由になったりして歯ブラシがうまく使えなくなった方、歯科矯正の治療中で装置が口の中にある方、といった通常の歯磨きに支障が出ている方には強くお勧めしています。市販品で私がお勧めするのは「リステリン®️」です。昔から使われているうがい薬でやや刺激は強いですが、正しく使うことで歯肉炎を抑えることが立証されています。

「電動歯ブラシを使用したほうがいいですか?」

電動歯ブラシには、いろいろなものがあります。最近の研究では電動歯ブラシを使ったほうが、いわゆる手による歯ブラシよりも効果的にプラークコントロールができるという報告もあります。ただし、その違いはあくまで限定的なもの(電動ブラシの方が優れてはいるが、そこまで騒ぐほどではないということ)です。 歯科医院では、定期的に(基本的には月に一度)衛生士による衛生管理指導を行いますが、その際に歯磨きのしかたを含めたチェックを行います(赤く染めだしてプラークを見えるようにする検査がそれです。)。その際に十分に歯ブラシによる歯磨きができているのであれば、あえて電動歯ブラシに替える必要はないと考えます。 逆に、電動歯ブラシにした方が良い場合もあります。
その第一は、プラークコントロールのチェックをした結果、歯ブラシによるブラッシング(プラークコントロール)があまり上手くできていないと判断された患者様です。歯ブラシもトレーニングが必要です。ただ様々な理由から歯ブラシによるブラッシングが上手くできないという患者様はいらっしゃいます。高齢により手が不自由になってしまったということもあるでしょうし、何らかの病であまり手が動かなくなってしまったということもあるでしょう。そのような患者様には電動歯ブラシは良い選択肢となります(もちろん、この場合も練習が必要です)。 次に、歯に矯正装置が装着されている患者様です。矯正装置(一般にブラケットと言います)が付いていると、歯を綺麗に磨くことはなかなか難しいことです。矯正して歯を綺麗に並べることができたのに、歯磨きが良くないせいでむし歯があちこちできてしまっったということは多く診る症状です。このような患者様で歯磨きが上手くいかない場合には電動歯ブラシは選択肢となりえます。 一度歯医者さんに口の中の状態を調べてもらってから、歯ブラシの選択をすることをお勧めいたします。

「歯がたまにしみるのですが、これはむし歯なのでしょうか?」

必ずしも 歯がしみる=むし歯 というわけではありません。むし歯以外で多いのは知覚過敏症です。
知覚過敏症はむし歯ではありません。原因として最も多いのは歯磨きの力が強すぎるために、歯ぐきが痩せてしまい(力負けしてしまい)、本来歯ぐきの下に隠れているはずの歯の根っこが表面に出てきてしまうために起こります。歯の根っこは歯の痛みを伝える神経が入っているところですから、根っこが表に出てきてしまうと知覚過敏を生じやすくなります。
知覚過敏の症状はとても不快ですが、一番よくないのは、患者様が歯がしみるという理由でその部分の歯磨きがおろそかになり、結果としてむし歯や歯周病になってしまうということです。むし歯になれば痛みは増えますし、歯周病になれば治療はさらに複雑になります。
”歯がしみるけど、知覚過敏かな?むし歯かな?”と感じたら早めに歯科医院を受診されることをお勧めします。いきなり詰め物をするとか歯の神経をとるといった治療ではなく、なぜ知覚過敏になっているのか、本当に知覚過敏なのか、という原因究明や診断を行ってから、それに応じた治療を早めにしておくのが最善の対処法ですし、結果的に最も簡単な治療で済むと言えます。

「私の家族は全くフロスもしないし、1日に1度しか歯を磨かないのに、むし歯もない。私は1日3回は歯を磨くし、歯間ブラシもするがむし歯も歯周病もある。これは私の運が悪いのでしょうか?」

非常に難しい質問です。まずご家族に本当にむし歯や歯周病がないのかどうかはわからないことです。症状がないこと=むし歯も歯周病もない、ということではないからです。
とはいえ、仮にそうだという前提でお話をします。
むし歯や歯周病は、人間みんなが持っている口の中の細菌による感染によって生じる病気です。これはどの人にも起こります。つまり問題となるのは、1.ご本人がしっかり口の中のお掃除ができているか? 2.患者様ご本人の抵抗力(細菌と戦える力)があるか? という2点となります。
幼稚な例えで申し訳ないですが、戦争ゲームで考えてみましょう。相手から常に攻撃を受けているのに、自分へのダメージを減らすにはどうしたらいいでしょうか? 当然第一は相手の戦力を減らすことです。減らせずとも相手が戦えないように邪魔をすることは必要です。それが日々の歯磨きであり、フロスであり、定期的な衛生士によるメンテナンスです。物理的に邪魔をすることになりますから、細菌が攻撃態勢をとりづらくなります。
第二は患者様ご本人の抵抗力です。抵抗力は遺伝的なもの、年齢を含めた基礎体力に依存するもの、全身的な健康状態に影響されるもの、と様々な要因があります。基本的にご本人の抵抗力そのものを劇的に上昇させることは不可能です(いつかそのようなことができる時代がくれば素晴らしいことです)。大事なことは、患者様自身の抵抗力を下げないように健康に留意することとしか現時点では回答できません。
それはまず、病気をしないこと(特に糖尿病で血のめぐりが悪くなります)、喫煙をしないこと(血のめぐりが悪くなります)、ということが重要だと考えます。
したがって、仮に今ご家族の中にあまり歯も磨かないけどむし歯も歯周病もない、という方がいらっしゃっても、それが今後もそうである保証はどこにもありません。いつこの”細菌の攻撃とご本人の抵抗力”のバランスが崩れるかはわからないからです。
私の歯科医としてのこれまでの経験から申し上げれば、やはり大きな病気にかかったりであるとか、家庭環境の大きな変化であるとか、が発端となることが多いようです。
「自分の運が悪い」のではなく、いろんな原因の結果として生じている問題です。「治療しておいて本当に良かった」と思えるように、一緒に頑張っていきましょう。

「一度詰め物や被せ物をしたら一生持つのではないのですか?」

これもよくある質問です。どんなに素晴らしい材料と技術を使って治療をし、詰め物や被せ物をしても、一生持つ保証はありません。詰め物や被せ物は所詮“ツギハギ”に過ぎません。洋服でもそうですが、使っていれば、ツギハギをした部分からダメになっていきます。ツギハギをした部分はやはり弱いのです。歯の詰め物・被せ物も全く同じです。口の中は湿度がほぼ100%であり、温度は体温と同程度。しかもアイスクリームを食べたかと思えば、コーヒーを飲んだり、と温度変化の激しい環境でもあります。また絶えず嚙み合うため歯や詰め物、被せ物には相当な力が加わります。スポーツなどをして噛み締めると、奥歯には自身の体重のおよそ3倍の力が加わるとも言われています。こうした過酷な環境に耐えられるように日々研究が続けられ、より長持ちするような材料が開発されています。

「私の噛み合わせは正しくないのでしょうか?」

(まず知っていただきたいことは、噛み合わせと歯並びとは全く別の問題だということです。一般の方にはなかなか想像しづらいことだと思います。)
親知らずを除いて歯が全部残っているとしましょう。
結論から言えば、正しい噛み合わせの人などまずいません。私もそうですし、私の家族もそうです。おそらく患者様の周りにも正しい噛み合わせの方はいないでしょう。それでも多くの方は問題なく過ごしていらっしゃいます。つまりこの事実こそが正しい噛み合わせでないこと自体は健康上の大きな問題でないことを示しています。
正しい噛み合わせはどうしたら作れるのか?私がアメリカに留学しているときに習ったのは、全ての歯(何の問題もない歯も含めて)を抜歯して総入れ歯か全てインプラントにすることです。そうすれば、歯医者や技工士が教科書で見るような、“理想的な正しい噛み合わせ”を一から作ることができます。ただどう考えても正当化できる治療ではありません。
では噛み合わせが問題となるのはどんな時でしょうか?まずは被せ物をしたり、歯を削ったり、と噛み合わせを変えるような治療をした直後に、患者さんが“噛み合わせが変わった?”と感じた時でしょう。それまで人生の長い時間を経て完成された噛み合わせが一瞬で変わるのですから、場合によっては噛んだ時に痛みや違和感が出たり、極端な場合は心身に変調をきたすことはあり得ます。その時は直前に受けた歯科治療に何らかの原因があると考えるのは合理的だと思います。
では、特にここ最近そうした歯科治療も受けていないのに突如噛み合わせがおかしくなる、ということがあるのでしょうか?噛み合わせは歯並び以外にも、顎の筋肉の運動、顎の骨の状態、顎の運動神経、あるいは自律神経の状態などによっても多少噛み方が変化することは“可能性として”ありえます(歯を削ったりといった噛み合わせや歯並びを変えるようなことをしていなくてもです)。 ただそうしたことが原因となって噛み合わせそのものが変化する事態は極めて稀だと考えてよいと思います。仮にそうだとすれば、原因はいわゆる一般歯科治療によるものではない可能性が高いのではないでしょうか。それは医科的な原因だったり、精神的、社会的な要因も関係したりしている可能性もあるでしょう。それは市井の一般歯科医では手が出せない領域です。
人体の動きが千差万別であるように、人間には、実際には正しい歩き方もないですし、正しい手の曲げ方もないと思います。そういった意味で、正しい噛み方というものもないと私は思います。教科書に載っているような理想的な噛み合わせはあるとしても、現実はそうではない。人生の長い時間をかけて到達した生理的な歩き方であったり噛み合わせであったりと、それが理想的ではなくとも“普通”なのだと思います。ですから噛み合わせを治していく治療を私がもし行うとするならば(あまり行いませんが)、理想的なものを参考にしつつも、患者さんご本人の直近の噛み合わせ(それまで本人が慣れ親しんだ噛み合わせ)に出来る限り近づけるということになるだろうと思います。
ただ繰り返しになりますが、噛み合わせが問題では?と感じた時、それが直前に噛み合わせを変えるような歯の治療を受けてから、と感じるのであれば、おそらくその時は歯医者の出番だろうと思います。

「PMTCを受けられますか?」

当院ではPMTC(専門的機械的歯面清掃)を行っています(自由診療となります)。
PMTCとは“予防処置”に該当し、歯周病などになっていない健全な口の中に対して実施するものです。そのため残念ながら健康保険は適用されません。PMTCとは北欧スウエーデンのAxelsson先生によって提唱された方法ですが、 主な目的は、“患者さん自身では除去できない汚れ(プラーク)を取り除く”ということにあります。ですから、患者さん自身で比較的簡単にお掃除ができる歯の表面をただブラシで磨くというものとは異なり、 特に歯間部(歯と歯の間)の汚れを落とすことがメインターゲットと言って良いと思います。汚れ(プラーク)がどのくらい残っているのかという診査から始まり、徹底した衛生指導に続いて、処置には特殊なブラシも用いますし、薬剤も使っていきます。
この一方で健康保険の範囲内で行う処置の中に“機械的歯面清掃”というほぼ同名のものがありますが、これは歯の表面をブラシなどによって清掃する処置ですが、PMTCとはコンセプトも効果も異なるものです。
とは言え、どちらの治療も口の中の健康を維持する上で重要な治療です。ただ患者様とお話をさせていただくと、PMTCを”何か特別(おしゃれ)なクリーニング”"歯をツルツルにする研磨"というイメージをお持ちの方が多いように感じます。 そういった一面があるのは間違いないですが、実際には極めて学問的、科学的な予防処置であり、いわゆる美容サロンで受けるような施術イメージとは異なるものです。 どちらの治療法が患者さんに適しているかを判断するにはまず検査・診断させていただいてからになります。ご遠慮なくお問い合わせください。

「フッ素を塗ってもらうことはできますか?」

当院では米国製高濃度フッ化ナトリウムを用いたフッ素塗布を行っています(少額ですが自由診療となります)。
言うまでもなくフッ素塗布は虫歯の予防に効果的であり、高濃度フッ化ナトリウムは知覚過敏を抑えるののにも有効であることがわかっており、欧米では標準的な予防処置として受け入れられています。
現在、国内の市販の多くの歯磨き剤にはフッ素が配合されていますが、万一誤った使用をしても害が起きないように市販品のフッ素の濃度は制限されています。その分、歯科医院で用いるフッ素は高濃度であり効果も遥かに上回ります。特に虫歯などが無くても現在の健全な歯の状態を維持したいという方、歯周病が進行して歯の根っこが見えるようになり知覚過敏に悩んでいる方などには自信を持ってお勧めできます。(高濃度のため幼児未満にはお勧めしておりません。)

「唾液検査は受けた方がいいのでしょうか?」

現時点(2022年)では何とも言えません。2021年の時点で、FDA(米国食品医薬品局)の認可を受けた唾液検査キットは、HIV感染や薬物乱用を検査するためのもの、Covid-19の検査のもの(緊急承認)だけであり、 う蝕や歯周病、頭頸部のガンのリスクを評価するものでFDAの認可を得たものはありません。(https://www.ada.org/resources/research/science-and-research-institute/oral-health-topics/salivary-diagnostics) つまり科学的に確かな検査である、という裏付けがありません。 現在この分野の研究は広く行われており今後の発展が期待されますが、検査方法として確立するにはまだかなりの時間がかかるのではないでしょうか。 ただ、検査自体は簡単で害のないものですから、私の印象は「信じる信じないは自由だし、タダならやってみてもいいかな」というものです。

歯周病の治療について

「歯石除去をしたり歯周ポケットの掃除をすると出血するのはなぜですか?」

歯石取りをしたり、歯周ポケットの中の深いところを掃除した時に出血するのは、決して衛生士が乱暴であるとか、下手であるとかではありません。最大の理由は歯ぐきの健康状態そのものです。
歯周病に罹っていると、歯ぐきに通常以上の水分を含むようになります(炎症によるものです)。また歯ぐきによる歯を支える機能が低下します(細菌の毒素や炎症によるものです)。語弊がありますが、歯ぐきの質そのものが劣化してしまうと言っていいと思います。極端な例えをすれば、健康な歯ぐきが新鮮でハリのあるトマト、歯周病に罹った歯ぐきが熟れすぎてブヨブヨになったトマト、のような感じとも言えるでしょう。後者をナイフでカットすると、グジュっとした果肉が簡単に漏れるイメージが想像できるかと思います。
話を戻します。そのため、器具を使って歯石とりや歯周ポケット内部の掃除を行うと、簡単に歯ぐき(正確には歯周ポケットの中の歯ぐき)が傷ついて出血してしまうのです。これは、健康な歯ぐきではまず起こらないことです。
しっかり歯石を取り、歯周ポケットの深いところを徹底的に掃除することで、歯ぐきを元の健康な状態に戻すことができます。最初は出血したり、痛みが出たりと驚かれるかもしれませんが、きちんと治っていきます。一緒に頑張っていきましょう。

「歯周病は歳のせいですか?」

歯周病は”老化”ではありません。歳をとったから、シワが増え、白髪が増えるという加齢現象とは全く別のものです。歯周病は細菌の感染症です。ただ風邪などのように体の外からやってきたものによる感染症ではなく、人間がみんな口の中にもっている細菌による感染症です。
そのためいつも口の中で人体を攻撃しており、それに対して人体も常に戦っています。 そのヒトの歯周病原因菌に対して戦う力が弱くなったり、逆に歯周病菌の力が強くなったりする(歯磨きがよくないためにヨゴレが増え、細菌が増えている状態がまさにこれです)ために、人間の方が力負けしている状態が歯周病です。ですから、ご高齢でも歯周病がほとんどない方もいれば、若いのに歯周病で総入れ歯になりかけている、という方もいます。
歳を重ねるにつれて歯周病になる、という傾向は、むしろ加齢に伴い手が不自由になったりして歯磨き自体が難しくなるから(その結果ヨゴレが溜まる)、といった要因がより大きいと思います。

「歯周病は薬を飲んだら治るものではないのですか?」

お気持ちはお察しします。歯周病は細菌によって引き起こされる病気ではありますが、その細菌は結核菌やo157のように外からやってきた菌ではなく、もともと患者様の口の中にいる細菌によって引き起こされたものです。ですから飲み薬(いわゆる抗生物質の内服)によって退治することはできないのです(仮に薬で大部分を退治してしまうと、菌交代現象と言って、いなくなった細菌の代わりに別の細菌が口の中に増えるという厄介な状況が起こります)。ですから、歯周病の治療とは、歯周病原因菌と共存することが前提であり、歯周病菌が人間に対して攻撃できないような環境を作ること・攻撃を受けても耐えられる環境を作ること、が目標となります。現時点において、それはあくまで患者さん自身による歯みがき、歯科医師・歯科衛生士による専門的な口腔衛生管理といった物理的な方法でしか達成できません。もちろん歯ぐきが腫れたりした患者様には抗生剤を処方することはありますし、それによって”一時的に“歯周病原因菌をやっつけることはできますが、抗生剤の効果が無くなるとすぐに元の細菌の活動性が復活するばかりか、ヘタをすれば抗生剤に対する耐性を持ってしまい、今後抗生剤が効かなくなってしまう可能性すらあります。抗生剤による治療はあくまで一時的なものに過ぎず、根本的な治療(細菌による攻撃を減らす環境をつくる、ということ)ではありません。
現在もさまざまな薬物療法が研究されていますが、残念ながら薬を飲むだけで治る、という段階には達していないのです。なかなか細菌とは厄介なものです。

「歯周病は再発するのですか?」

一度治療して治ったとしても、定期的なメンテナンスを行わないと、高い確率で再発することが分かっています。一度歯周病にかかった患者様はやはり“歯周病になりやすい”と考えるべきであり、治療によって治った後も定期的にメンテナンスをすることによって、細菌が攻撃できないように口の中の汚れを除去していくことが標準治療として推奨されています。

「歯周病の治療にはどのくらいの期間がかかりますか?」

 

歯周病の程度と範囲にもよりますが、多くの患者さんの場合、上下左右の奥歯が歯周病にかかっており、治療が必要なケースが多いです。その場合、歯周病の治療が完了するまでにはおよそ半年くらいは必要になるとお考えください。また歯周病の治療が終了した後に、被せ物によって治療した歯を連結して固定したり噛み合わせを安定させていく治療が必要になることがあります。その場合はさらに数ヶ月必要になる場合があり、患者様のご都合にもよりますが、最終的には1年間くらい治療期間が必要になることもあります。

「歯周病の治療にはどのくらいの頻度で治療に来ないといけないのでしょうか?」

歯周病の治療では、治療を行ったらその後の治っていく経過を観察していく必要があります。今日治療を行なって、翌日経過を見ても通常は何の変化も認めません。ですからだいたい1−2週間に一度くらいの頻度で来院いただき、治療を受けていただくことを最初はおすすめいたします。もちろん、歯周病の治り方によっては、頻度を短くしたり、あるいは長くしたりということはありますので、その場合はその都度ご説明いたします。

再生治療について

「先生のところで行っている再生治療で歯は再生できますか?」

結論から申し上げれば、私が行っている再生治療では「歯」を再生させることは残念ながらできません。2022年現在、歯科において一般的に行われている再生治療とは”歯の再生治療”ではなく、”「歯周組織(歯を支える歯ぐきや骨)」の再生治療”であり、歯そのものを再生させる技術はまだ応用されていません。
ここからは全くの私見となりますが、近い将来において歯そのものの再生が実用化されるのは極めて難しいと考えています。 その理由は

  • 1.治療費(歯の再生にかかる費用)が膨大になる可能性があること、
  • 2.必要となる歯が再生できるかが不確かであること、
  • 3.短期間で再生できるか不明であること、
  • 4.再生した歯がどのくらい持つのかが不明であること、
  • が挙げられます。

    1.については少なくとも、今行われているインプラント治療の費用(歯科医院にもよりますが大体一本40万円程度)よりも安価でないと患者様にメリットはあまりないと思われます。
    2.については、例えば前歯を失ってしまって前歯が欲しいのにもかかわらず、何らかの方法で歯を再生できたとしても、元の前歯が確実にできるかどうかがわからないことです。もし奥歯のような形で再生してしまったら、失った歯の代わりとして使えません。
    3. については、再生治療ができたとしても、遅くとも再生治療開始後1年以内に代わりの歯として使えなければ、多くの場合インプラントをした方が早いということになるでしょう。
    4.についてはもっとも重要なことですが、再生した歯がどのくらい持つのかは技術が確立して応用され、長い年月が経たないとわからないことです。
    繰り返しになりますが、現時点(2022年)では、残念ながら歯の再生治療は治療法として確立していません。あくまで”歯周組織(歯を支える歯ぐきや骨)の再生治療”となります。
    歯周組織を再生させることで、歯周病でグラグラしている歯の寿命を延ばすことができますし、他院でインプラント治療が困難だと言われた患者さんに対しても、インプラント治療を行える場合があります。科学的にも十分に根拠がある治療法だと言えます。

    インプラントについて

    「私はインプラントができますか?」

    一番多く訊かれる質問の一つです。基本的に、インプラントは”通常の日常生活が送れる方”ならば誰でも可能です。ご高齢であっても問題はありません(80歳後半になってインプラント治療を受けられる方もいらっしゃいます)。これは患者様といろんなお話をさせていただいた上で、総合的に判断するしかない問題です。
    逆に次のような患者様にはインプラント治療を控えさせていただく場合があります。

  • 未成年の患者様(顎の成長が終わっていない可能性があり、インプラント治療には慎重であるべきです。)
  • 頭頸部にガンの治療の一環として放射線治療を受けたことがある患者様(顎の骨の状態がインプラントに向かない可能性が高いです。)
  • 重度の”糖尿病を抱えている患者様(軽度ならばあまり問題はないのですが、内科あるいは糖尿病専門医での検診をお願いすることがあります。)


  • 「骨粗鬆症と診断されました。インプラントはできないのですか?」

    これもよく尋ねられる質問の一つです。様々な研究を見てみますと、骨粗鬆症の患者様であってもインプラントは問題なく長持ちする、という意見と、そうでないとする意見の両方が見受けられます。
    ただし、骨粗鬆症がインプラントに悪影響を及ぼしかねないとする研究をみても、その影響度合いは極めて小さく、治療自体を差し控えるほどのものではないというのが一般的な見解だと思われます。
    私もこれまで多くのインプラント治療をしてまいりましたが、骨粗鬆症のせいでインプラント治療ができなかった、という患者様はいらっしゃいません。もしご心配の患者様がおられたらご相談ください。

    「インプラントとブリッジとどちらがいいのですか?」

    最近の研究ではインプラントでもブリッジでも”しっかりメンテナンスをすれば”どちらも長持ちすることがわかっています。むしろ大事なことは治療をする前にどちらの治療を選んだ方がメリットが大きいかを慎重に見極めることです。
    ブリッジは歯がなくなった部分を補うために、歯を抜いた部分のすぐ隣の歯を削って、失った歯の分も含めて、削った歯に負担を求めるというやり方です。そのため、噛む力に対する設計を誤ると長持ちはしないですし、何よりも削った歯自体(ブリッジを被せた歯)がダメになってしまえばブリッジもダメになってしまいます。もちろん、きちんとメンテナンスをしていけば長持ちすることは先に述べたとおりです。
    逆にインプラントは歯を抜いた部分にのみ人工の根っこを埋め込むという方法のため、原則的に他の歯を削ったりすることはありません。その結果、抜歯をした部分の周囲の歯の寿命が延びることになります。またインプラント自体は人工物のため、虫歯になることはないという大きなメリットがあります。ただインプラントは外科治療であるため、手術が必要ですし、一般にブリッジよりも治療期間も長めで、費用も高価となってきます。メンテナンスを怠ればインプラント周囲炎というインプラント版の歯周病によってインプラントが抜けることもありえます。
    従いまして、患者さんの残っている歯の状態、噛み合っている歯の状態、歯磨きの状態、全身の状態、などを総合的に判断して、どちらが患者さんに適しているかを決める以外に最善の方法はなく、患者さん一人一人の状況によって、インプラントが最善と思われる場合もあれば、ブリッジがベストの方法だと考えられる場合もあります。

    「インプラントは一生持つのですか?』

    残念ながら、一生持つと保証できるものではありません。それは医学である以上、また道具である以上、致し方のないことです。
    考えてみてください。口の中は常に多湿(ほぼ100%)で、熱いコーヒーを口に含むこともあれば、その直後に冷たいアイスクリームを食することもあるという具合に、温度変化ひとつ取っても極めて過酷な環境です(←同じことをガラスコップでやればコップは割れてしまいます)。
    そして、会話や食事によって常に上下の歯が強い力で噛み合っています。それも1日に何万回もです。このような環境の中で歯はもちろん、人工物であるインプラントが全く劣化しないということは考えられないことです。やはり人工物ですから、徐々に何らかのダメージは受けています(自動車のタイヤやネジと同じです。自動車のタイヤも劣化したり破裂したりする前に、メンテナンスや車検を受けて、トラブルが起こらないように劣化した部分は取り替えます。それでもやはり予期しないトラブルは起こりえます)。
    そうは言っても、現在主流となっているタイプのインプラントが使われるようになって40年以上が経過し、“適切な治療とその後の適切なメンテナンス”を行えば、20年以上問題なく維持されることも分かっています。
    インプラントが長持ちしない大きな理由としては、歯周病が口の中に広がっている場合であるとか、ヘビースモーカーであるとか、定期的なメンテナンスを歯医者で行なっていない、とかは科学的に立証されています。ただこうした科学的な根拠以外にも、経験論ではありますが、患者様の“インプラント以外の歯”が何らかの形でダメになり、インプラント治療を行った当初と大きく噛み合わせが変わってしまった場合に、口の中に残っているインプラントに過度な負担がかかってしまってその結果失敗したのではないか、と思われる場合が時折見受けられます。このようなことから、インプラント治療においてさらに重要なのは、インプラント以外の他の歯がこの先もきちんと使えるかどうかをまずしっかり診断し、計画を立て残せるように治療しておくということだと強く感じています。(当院では、インプラントの被せ物をしてから5年間は追加の費用負担無しでの保守を行なっています。6年目以降に生じたインプラントの不具合につきましては経年数に応じて一部負担をお願いしております。)

    「インプラントの値段はどうしてこんなに歯科医院によって違うのですか?」

    なぜ医院によってインプラントの値段がこれほどまでに異なるのか、とよく尋ねられます。
    インプラントの治療に含まれる費用は、検査費用、診断料、材料費用、手術費用、技工費用(技工士さんが被せ物を作る費用)、メンテナンス費用などがあります。医院によってはこれ以外にも費用が生じることがあると思いますが、基本的にはこれらを総合した金額がいわゆる”インプラント治療にかかる費用”と考えていいでしょう。 簡単にその内容をお話しします。

    検査費用は、実際に口の中を見たりレントゲン写真を撮ったりすることによって生じる費用です。必要に応じてコンピューター断層撮影(CT)を撮影することもあります。口の中の写真を撮影することも必要な場合がありますし、噛み合わせを確認するために模型(歯型)を採取することもあります。インプラントは自由診療になりますから、健康保険によって術前や術後の検査の費用が賄われることはありません。

    診断料ですが、技術費用の一環と言ってもいいでしょう。私はこれが最も大事な項目だと考えます。ここを誤るとこの先の治療の全てが間違いになるからです。この診断技術を向上させるためには、相当の勉強と技術の研鑽が必要になります。私たち歯科医はここに多大な投資をしています。日々の診療後に研修を行なったり、週末には学会に赴き治療技術だけではなく、診断のトレーニングをするのです。決して一朝一夕で培われる能力ではありません。大変申し上げにくいことですが、患者様にはわかりにくいことかもしれません。歯科医院の中ではただ口の中を見ているだけ、レントゲン写真を見ているだけ、と思われるかもしれません。しかしそうではなく、それらを拝見しながら、どう治療を組み立てていくかを歯科医はほぼ同時に計画しています。むしろある程度の治療の最終ゴールがその時点で見えてきます。あえて申し上げれば、これこそが専門医の力だと言えます。私がアメリカの大学院にて専門医教育を受ける過程でも言われたことですが、“治療法はいろいろある。しかし診断は一つである。” まさに診断するということはそのくらい重大で貴重なことです。

    材料費用ですが、いろいろなものがあります。一番わかりやすいのは手術で使用するインプラント体でしょう。値段は上から下までさまざまです。いわゆるメジャーブランドである欧州製から日本製、その他アジア国内製、とあります。今はインプラント治療の歴史自体も長くなり、国際的に広く販売されているものは品質がかなり向上してきています。 私がインプラントの材料を選択する上で重視する項目の一つは、そのインプラントが世界的に使用されているかどうか、ということです。当院では主にスイス製のストローマンインプラントを用いて治療をしています。それは長きにわたって研究された製品であるため、品質に問題がないこと、今後の供給に不安がないこと、という信頼性があるからです。人体に埋め込む材料が、信頼に足る品質を満たしていない可能性があるとすれば、どんな気分でしょうか。自分の家族が患者さんだとしたら使用できるでしょうか?供給不安の恐れがないことも重要です。過去数十年に渡って研究され尽くしたインプラント材料であるからこそ、全世界で何百万人という人に応用されており、材料が供給されなくなるという不安がありません。治療後にも保守されるべきインプラントが全世界に存在しているからです。これが歴史が浅い、国際的に研究もあまりされていない、それほど知名度のないインプラントともなると、供給会社が“売れない”と判断すれば、あっさり販売をやめてしまいます。そうするとどうなるでしょうか。そのようなインプラントをもし用いて治療していたとしたら、その先の保守ができなくなってしまいます。もし40歳でインプラント治療を受けたと仮定します。寿命が90歳とさらに仮定すれば、この先50年は部品が供給されなければ万一の保守ができないのです。メジャーブランドのインプラントは材料費用としても高額です。ですが、確実に患者様の信頼に足るものであることは専門医として自信をもって断言できます。

    手術費用ですが、これも歯科医院によって様々です。技術費用が主な部分を占める場合もあれば、追加の材料費用を含めることもあります。技術費用に関することとしては、手術に際してさまざまな器具を用意しておかなければならないことが挙げられます。手術の準備自体もかなり手間のかかるものであることをご理解いただければと思います。追加材料費用については特に、インプラント治療に必要な顎の骨の量が十分でない場合には、骨増生治療(再生治療の一つ)が含められることがあり、これにはさまざまな再生材料を用いる可能性があるため、費用は多岐にわたります。この項目は、歯科医院ごと、あるいは患者様ごとに全く異なるのではないでしょうか。ただ最初からインプラント治療に必要な顎の骨の量が十分にあるという患者様は極めて少数であり、手術費用については患者様の顎の骨の状態に大きく左右される項目だと言えます。

    技工費用ですが、これはいわゆる“被せ物”を作成するのに必要な費用です。まず、きちんとした品質(精度・見た目・材料の選択眼など)の被せ物を作成できる技工士さんはどこにでもいらっしゃるわけではありません。きちんと研鑽を積んだ技工士さんにお願いする必要があります。最近はAI(人工知能)が設計するような場合もあるようですが、やはり最後は人の手が入らないと信頼に足るものはできないと私は考えています。被せ物は一つ一つがオーダーメイドであり大量生産品とは異なるからです。私はそのような技工士さんに作成を常にお願いしていますし、密にコミュニケーションを取りながら、インプラントの被せ物を作っていただいています。そしてきちんとしたものを作成する技工士さんにはきちんとした対価をお支払いするのが当然です。過去数十年、古い世代の心ない歯医者さんがこの技工士さんへ支払う技工料金を値切りに値切ってきたために、技工士さんは職業として成り立たないほどにまでなってきてしまっています。真っ当な製品は真っ当な対価からしか決して生まれません。特にこのような人の手が必ず必要なものはそうである、と断言できます。

    メンテナンス費用ですが、これも医院によって様々です。当院では当院で手術して埋入したインプラントについてはメンテナンス(定期的なチェックとクリーニング)は原則無償で行なっています。他の歯科医院にて手術されたインプラントについては別途メンテナンスの費用をお願いしています。

    このようにさまざまな費用が合計されて、インプラントの治療の価格が決まります。むしろ“インプラント一本につきいくら”という価格設定がいかに難しいものか、ということが少しでもご理解いただければ歯科医として幸甚です。
    それでも敢えて申し上げれば、2019年現在でインプラント1本の価格(手術で埋めるインプラント体と被せ物を含めた価格)が30-40万円を下回る場合は、ここに書かせていただいた項目のどこかで妥協せざるを得ないのではないか、と思います。
    インプラント治療は健康への投資であり、それも高額な投資です。ただきちんと治療を行えば十分に患者様の健康に資するものだと考えます。

    「他の歯科医院で治療したインプラントの調子がおかしいのですが、何とかできますか?」

    よくお電話にていただく質問です。正直に申し上げれば、一度拝見しないと何とも判断することができません。ただインプラントのトラブルについては、まずインプラントの手術を行った先生ご本人に診てもらうことが大原則です。なぜなら使用したインプラントの状態や材料について最も情報を持っているご本人であり、手術時の患者様の顎の骨がどのような状態であったかといった、その後のインプラントの経過を左右するような貴重な情報を持っているからです。インプラントは歯と似てはいますが、本体は精密な部品の集合体であるため、歯と異なりどの歯医者でも簡単に修復できるものではありません。そのインプラントに合う純正の部品が必ず必要です。

    極端な例えかもしれませんが、自動車のトラブルで考えてみましょう。トラブルが生じて、修理工場に持ち込まれたとします。当たり前の話ですがトヨタの車はトヨタの工場に持ち込むでしょうし、日産の自動車であれば同様に日産の工場に持ち込むでしょう。それは、そこに自社の自動車に関するノウハウがあり、修理に必要な器具や材料があるからです。

    さて、ではそのようなことができない場合、つまり“純正品を扱う工場に持ち込めない場合“、持ち込まれた自動車をどう診断していけばいいのでしょうか?

    その自動車は購入時にどんな状態だったのでしょうか?まともな新車だったのでしょうか(新品で購入した時から欠陥車だったとしたらどうでしょうか)?、このトラブルが起こるまできちんと定期的にメンテナンスされていたのでしょうか?とんでもない走り方をしていたのではないでしょうか?

    持ち込まれた修理工はそういった情報を知る術がありません。あくまで持ち込まれた時点の状態で判断し、対応するしかありません。しかも修理に必要な材料が調達できるかどうかもわからないのです。トヨタの車の修理に日産の部品を使って、まともに維持できるとは思いません。

    インプラントのトラブルでも似たようなことが言えます。もともときちんとしたメーカーのインプラントなのか?
    (←メンテナンスや修理に対して材料が手に入れられるようなメーカーなのか、ということですが、そうでないメーカーや既に生産終了してしまっているものもあるのです。)
    きちんと最初から顎の骨に十分に埋められたインプラントだったのか?
    (←インプラントの手術はやはり技術が必要であり、長持ちさせるように手術を行うには相応の処置があらかじめ必要です。ときどき新築マンションでも地下の岩盤に基礎が届いていないといった施工不良が見つかることがニュースで報道されることがあります。住み始めはいいかもしれませんが、知らずに長期にわたって居住したり、災害が発生しトラブルがあるととんでもないことになってしまいます。既に居住しているマンションの基礎からやり直すなんてことは、おそらくとんでもない大工事になるのではないでしょうか。)

    このように顎の骨に埋めこむ部分のトラブルについては、何とかそのまま使えるように補修していく治療をすること(外科治療になります)はありますが、その後どのくらい長持ちするのかということは科学的に未だ証明されていません。それは基礎が岩盤にまともに届いていないマンションをそのまま補修しながら使っていくことに似ています。今後どうなってしまうのか予測がつかないのです。
    その点をご理解いただいた上で補修治療をご提供することになります。治療の方法によってはある程度トラブルを抱えたインプラントでも維持できるようになる場合はあります。実際そのように治療を受けられた患者さんもおり、今のところ問題なく過ごしていらっしゃいます。
    いづれにしてもそれにはまずしっかりと診察をさせていただく必要があります。

    このような不確かな状況を避け、きちんとトラブルが少なく長持ちするような方法はないですか?と訊かれれば、理想的には骨に埋められたインプラント体を撤去して(多くの場合は外科手術になりますが、インプラント体の撤去は健康保険が適用されます)、穴の開いた顎の骨を再生させた上で新たにインプラントができるだけの骨の量を回復させ(保険外診療となります)、そして新たにインプラントを埋入することだと言えます。
    インプラントの手術とは、家を建てるときの柱をどれだけしっかり立てるか、どれだけ基礎をしっかり埋め込むか、という安易にやり直しのきかない難しい治療なのです。

    矯正治療について

    矯正治療をお考えの方へ

    当院では、矯正治療に関するご相談をいただくことが多くあります。
    また同時に、矯正治療後に生じた歯ぐきのトラブルについてもご相談いただくことが多くあります。
    当院では、少数の歯を動かす、といった部分的な矯正治療は行っておりますが、全体的な歯並びを大きく変えるという矯正治療は行なっておりません。
    そのため、矯正治療そのものに関しては詳細なコンサルテーションを行うことができませんが、
    歯周病専門医の立場から、

  • 矯正治療を行う前にしていただきたいこと
  • 矯正治療を行なっている間にやっていただきたいこと
  • 矯正治療の後に生じる可能性のある歯ぐきのトラブルについて


  • といったことについてはご相談に乗り、お答えをしております。(米国で仕事をしておりました時も、矯正治療による歯ぐきのトラブルの対応はよくありました。)

    全てをここに記載することはなかなか難しいですが、その一部をお示ししたいと思います。

    矯正治療を行う前にしていただきたいこと


    歯ぐきの状態や歯を支える骨の状態、歯周病の状態に関するチェックを受けることを強くお勧めいたします。

    矯正治療とは歯を並べ治す治療です。患者さんにとっては、噛む部分である”歯”しか動いていないように見えるかもしれませんが、同時にその下の本来見えない部分である歯の根っこやそれを取り囲む骨、さらには歯ぐきも動いています。 問題は、いわゆる上物である”歯”が希望通りに並んだとしても、その歯の根っこが歯科医学的(歯周病学的)に望ましくない位置に動いてしまうことがありうるということです。
    仮に、見える範囲においては歯がきれいに並んでいても、その歯がどのくらい傾いたりしているか、といった条件次第で、その歯を支える骨がほとんどなくなっているという場合が多々見られます。

    歯科医学的に理想的な状態であれば、健康な歯の周囲にはしっかりと歯槽骨が360度ぐるりと取り囲み、その歯槽骨の上にのっかるように歯ぐきがくっついています。その場合は矯正で歯を動かしてもその歯やその”根っこ”に付き添うように骨や歯ぐきも動いていきます。
    ただ、前歯においては、矯正治療を始める以前から、もともと歯を支える周囲の骨(とくに唇側)が少ないということはとても一般的です。
    それ自体は生まれ持ったものなので仕方ないことなのですが、やはりこうした特徴を持っている患者さんの場合には、歯周病になった場合や、事前の綿密な骨の状態の診断をせずに矯正治療をした場合には、さらに骨が少なくなり、その結果として歯ぐきが異常にやせてしまったり、歯の根っこが露出して歯が長く見えるようになったり、あるいはそのために歯がとてもしみるようになったりというトラブルを抱えることがあります。極端な場合は、せっかく歯が並んだのに歯が抜けかけている状態となっていることもあります。

    そのため、できるだけ矯正治療を始める前には、特に前歯を大きく動かそうとする矯正治療の前には、前歯を支える骨の状態をできればCTを撮影して確認していただいたほうがよいと考えます。
    そして必要であれば、”矯正治療によって歯を動かし始める前に”歯を支える骨や歯ぐきをあらかじめ増やしてトラブルを避ける治療(再生治療)をお勧めしています。こうした治療を前もって行うことにより、矯正治療後に起こりうる歯ぐきや歯を支える骨のトラブルを避けることが可能になります。

    矯正治療中にやっていただきたいこと


    マウスピースタイプを用いた矯正治療の場合は問題になりませんが、従来のやり方であるブラケットを歯に装着して行う矯正治療の場合は、物理的に歯を磨くことができなくなってしまいます。そのため、定期的な歯科医院でのクリーニングと、自宅でのうがい薬の使用を強くお勧めいたします。うがい薬については、当院ではリステリン®︎をお勧めしています。

    矯正治療は歯周病治療と同じく、正しい知識と技術を用いて行えば歯並びや噛み合わせが良くなり、歯磨きを行った時の効率が上がることで予防効果が上がることが期待されます。また仮に虫歯や歯周病になったとしても、歯並びが整っていることから治療が比較的容易になってきます。虫歯の治療の場合は、状態によっては歯を削る量を少なくすることができます。
    ご希望の患者様にはこのようなコンサルテーションを行い、こうしたトラブルを避けて矯正治療を進めていただける矯正専門医をご紹介いたします。
    私は歯科矯正治療は年齢を問わず、可能であればどなたにでもやっていただきたい歯科治療の一つだと考えています。